九州焼酎島

2016/12/08

ゆったり焼酎日和 | 減圧蒸留機は日本酒蔵からって知ってた?

すっきり、さわやかな減圧蒸留の機械を開発

焼酎界に革命をもたらした福岡の喜多屋

減圧蒸留、焼酎ブーム、喜多屋、九州焼酎島、日本酒

本格焼酎の蒸留方法は、昔ながらの「常圧蒸留」と現代的な「減圧蒸留」の2パターンがあるが、焼酎界に革新をもたらした減圧蒸留法を、福岡の日本酒蔵が開発したことはあまり知られていない。

喜多屋は福岡県八女市の日本酒蔵

開発したのは福岡県八女市にある「喜多屋」。

世界的に権威がある競技会、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2013で、日本酒世界一「チャンピオン・サケ」の称号を得た「大吟醸 極醸 喜多屋」などを造り、日本酒ファンにはよく知られた蔵である。喜多屋では日本酒を製造する一方で、焼酎造りにも取り組み、麦焼酎の「是空」「吾空」などをつくっている。

減圧蒸留、焼酎ブーム、喜多屋、九州焼酎島、日本酒

昔の焼酎は臭かった!

減圧が焼酎ブームに火をつける

昔の焼酎は臭かった。原料の質や処理にも問題はあったのだが、原料そのものの個性がもろに出る常圧の蒸留法という理由もある。

これに対し、クセのないすっきりした味わいになる減圧蒸留は、「芋臭い!」などと敬遠されがちだった焼酎を、ぐっと身近な存在にさせてくれた。初心者でも飲みやすい減圧の焼酎は、焼酎ブームの火付け役になったと言われる。焼酎ブームの礎をつくったのが、日本酒蔵だったというのは、何とも面白い。

常圧は濃厚、減圧はすっきり

減圧蒸留、焼酎ブーム、喜多屋、九州焼酎島、日本酒

ここで、常圧と減圧の簡単な違いについて説明しておきたい。

常圧は昔ながらのやり方で、通常の気圧(水の沸点100度)で蒸留する。原料そのものの個性が出る。これに対して、減圧は気圧を低くし、低い温度で蒸留する。原料のクセをうまく抑えることができる。

1970年から減圧蒸留機の開発に取り掛かる

ヒントは真空蒸発装置

減圧蒸留機の開発に携わった木下茂・喜多屋代表取締役会長が、開発秘話について講演している。喜多屋から講演要旨をいただいたので、抜粋しながら紹介したい。

喜多屋が、焼酎界で前例のない減圧蒸留の試験を始めたのは、1970年。高品質の焼酎を求めて手探りしている時だった。研究室で液体の低温凝縮に使っていたガラス製の真空蒸発装置を逆使いしてみたのがヒントになった。それをもとに、減圧蒸留機を設計し、機械メーカーに製作を依頼した。

1972年、試作機が完成し、翌年に初の商品化

1972年、40リットルの小型の試作機が完成。しかし、大型化すると圧力に耐えられないなどの問題点があった。試行錯誤を重ねた末、大型化を実現。営業レベルに達したと判断し、1973年に「九州の火の酒」として、初の減圧蒸留の焼酎を販売した。

特許を取らず、他メーカーに普及

減圧蒸留、焼酎ブーム、喜多屋、九州焼酎島、日本酒

実は、喜多屋は自ら開発した減圧蒸留機について、特許は取っていない。普及、販売を機器メーカーに無償で許可している。結果、九州の本格焼酎業界に減圧蒸留機が急速に普及していった。

プレミアム焼酎の代表格である芋焼酎「魔王」は減圧でつくられている。全国的なブームを引き起こした大分麦焼酎の多くは減圧蒸留で製造されている。今では多くの焼酎蔵が減圧と常圧を使い分け、さまざまな味わいの蒸留酒を提供し、消費者の楽しみの選択肢は増えている。

焼酎がこれほどまでに、多くの人たちに親しまれる酒となった背景には、半世紀近く前の日本酒蔵のチャレンジがあったのである。

 

 

 

 

 

 


<
>