九州焼酎島

2017/08/04

蔵元探訪 | 川越酒造場(宮崎県東諸県郡国富町)

つぶれかけた蔵が今や人気蔵に

ひと味違う芋焼酎「川越」

うまい焼酎をつくっているのに、なかなか売れない。江戸時代末期から続く、歴史ある蔵が傾きかけていた。「何とか力になりたい」と、味に惚れ込んだ福岡の酒屋仲間が立ち上がる。「福岡の人たちが飲みたい焼酎を」と酒屋側が提案し、生まれたのが「川越」だ。他とはひと味違う芋焼酎で、今やなかなか手に入らない。蔵再建の鍵となった人気銘柄の誕生秘話を聞きに、宮崎県国富町の川越酒造場を訪れた。

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伝統製法のかめ壺で仕込まれる「川越」

蔵は、かつて江戸幕府の直轄領だった国富町の中心部にあった。明治末期に建てられたという仕込み蔵には、古い備前焼のかめが埋め込まれていた。足を踏み入れるだけで、歴史を感じさせる。

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かめ壺のふだには「大正」の文字

機械化を進めず、手づくりにこだわる

米焼酎をブレンドした芋焼酎

「うちの焼酎蔵が将来残っていくためには、『伝統工芸』がキーワードになると思うのです。だから、昔ながらの手づくりにこだわっています。できるだけ機械化はしないようにしています」。蔵の19代目で杜氏も務める川越雅博さんが説明してくれた。

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19代目の川越雅博さん

大手と同じでは、いつかは飲み込まれていく。だから「川越」も手作業で丁寧につくる。他の芋焼酎との大きな違いは、米焼酎をブレンドしていることだろう。もともと「若い女性でも飲める芋焼酎、都市圏でも売れる芋焼酎」をコンセプトに開発された。米焼酎を混ぜることによって、芋臭さが苦手な人でも、まろやかで飲みやすくなっている。

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「女性に受けて、福岡で売れる焼酎を」

職人気質の亡き父が味の土台をつくる

米焼酎のブレンドを考えたのは、今は亡き雅博さんの父、善博さんだった。頑固で職人かたぎ。でも、うまい焼酎をつくった。だから、福岡の酒屋も手を差し伸べた。1990年代半ばのことだ。「川越」は、5つほどのサンプルから、酒屋の多数決で決めたという。「ラベルも数種類から、多数決で選んでもらったんです」と雅博さんは振り返る。

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当時、雅博さんはカメラマンの仕事をしながら、蔵仕事を手伝っていた。「写真も動画も撮ってました。ギャラも結構よかったので、蔵を継ごうなんて全く思いませんでしたね。だって、潰れかけてましたもん」

秋から冬にかけての仕込み時期は激務。「本当にぶっ倒れるぐらい毎日働いてました」。嫌々製造に携わっていたから、何とか逃げられないかと思っていた。でも、不整脈で時々、苦しそうに横たわりながらも、焼酎づくりを続ける父の姿を見ると、休むわけにもいかない。何よりも、「福岡の酒屋さんに商売抜きで応援してもらって、中途半端はダメだと思ったんですよね」。

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ANA国際線ファーストクラスに“搭乗”

女性客室乗務員に好評

26歳の時、退路を断って、蔵を継ぐ決心をする。昔ながらの非効率さに嫌気がさし、「父から仕事を奪ってやる、という覚悟を持っていました」。川越酒造場の法人化も父に無断で行い、事務所を新築しようと、役所への建築確認も父母が旅行中に勝手にやった。

福岡で売り出した「川越」は2002年、全日空(ANA)の国際線ファーストクラスの焼酎に選ばれた。「うれしかったのは、女性の客室乗務員に好評だったことです。男性上司はこんな田舎の焼酎でいいのか、と疑問だったようですが、最終的に女性の意見が選ばれたとか」

「若い女性でも飲みやすい」をコンセプトに生まれた芋焼酎は、日本全国、そして世界に羽ばたいた。じわりじわりと知名度が上がり、いつの日か「幻の焼酎」と呼ばれるまでの人気となった。

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出荷を待つ「川越」

一番になりたい

蔵を汚すことだけはしたくない

かつては傾いた蔵の経営が、軌道に乗り、44歳になった雅博さんは、なぜ自分が焼酎をつくっているのか自問自答しているという。「僕は、自分の利益だけのためには働けないんですよね。今は先祖が守り抜いてきた蔵を汚すようなことだけはするまいと、焼酎をつくっています」。

父の善博さんとは、喧嘩ばかりだったというが、「親父が蔵の土台を守り抜いてくれたから今があるんです」と感謝している。今では「『お父さんの時よりもうまくなったね』と言われたりするんですよ」と笑う。

「うちの焼酎づくりって、本当にしんどいですよ。他の蔵よりも優れた焼酎をつくりたい、一番になりたいという気持ちがあったからこそ、続けてこれました。今ではきつい作業が好きになっています。終わった後の達成感がありますから」。有名になっても、焼酎に向き合う姿勢は変わらない。ことしも、ぶっ倒れるような日々がやってくる。

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蔵で造る芋焼酎は「川越」と「日向 金の露」。米焼酎の「赤とんぼの詩」も製造している。

川越酒造場

宮崎県国富町大字本庄4415-1

0985-75-2079

「川越」は、朝掘ったばかりの新鮮な黄金千貫芋をその日のうちに加工し、伝統製法のかめ壺仕込みで醸している。麹米は、泡盛と同じでタイ米を使う。「タイは焼酎のルーツだし、タイ米は焼酎づくりに適した米」と雅博さん。「焼酎の真骨頂は、お湯割りでこそわかると思うんです。川越はお湯で割っても香りが飛ばないし、芯もしっかりと残った芋焼酎です」


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