九州焼酎島

焼酎人
吉田忠士さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 九州の肴と郷土料理の店「喜家」代表 吉田忠士さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

九州の焼酎を広めていきたい

うちの店は変わっていまして、福岡にありながら6割ぐらいは九州以外のお客様なんです。本格焼酎の9割以上が九州で生産されています。 せっかくだから福岡に遊びに来られる関東や関西などのお客様に、九州の焼酎を広めていきたいな、という思いを持っています。

焼酎は400~500種類ぐらい取り扱っています。年間で入れ替わりはありますが、常時300ぐらいの銘柄をそろえています。 日本酒も年間200種類ぐらい扱いますが、8対2ぐらいの割合で焼酎を飲まれる方が多いです。 やっぱり、焼酎を飲むのは、九州に来る楽しみの一つでもありますし、うちの店に来る目的でもありますからね。 ことしで17年目になるんですけど、福岡で焼酎の品ぞろえは一番じゃないかな、と自負してます。

うちの店に来てから出世されるんです

17年やっていると、いろんな方が来られますね。総理大臣になられた方もいたし、 福岡市の高島宗一郎市長もアナウンサー時代から来られていました。プロ野球広島の黒田博樹投手も大リーグに行く前は、おいでになりました。 4、5年前にはラグビー日本代表監督だったエディ・ジョーンズさんも、いらっしゃいましたよ。 今でこそ騒がれていますが、当時は誰も気づかなかったですね。五郎丸歩選手? まだ来られてないですね。 うちは、出世する前の方が多いんですよ。うちの店に来てから出世されるんですよね(笑)。

地元でしか飲めないような銘柄をオススメするようにしています

九州以外のお客様が多いということで、僕は地元でしか飲めないような銘柄をオススメするようにしています。 地元で消費される焼酎は値段も手ごろです。地元のお客様って味にも値段にもうるさいじゃないですか。 だから、ある程度リーズナブルで味もしっかりしたものを、400~500円ぐらいで、波なみとコップに入れて出してます。東京や大阪の方は、喜ばれますね。

オススメの焼酎ですか? あんまり教えたくはないのですが、「伊佐大泉」(鹿児島・大山酒造)のお湯割りがうまいですね。 荒削りな部分が残っているのがいいです。その角を削ったのが「八幡」(鹿児島・高良酒造)で、これもいいですね。 芋で香ばしいのは、同じ高良酒造の「田倉」かな。25度のお酒では一番香ばしいですね。

香ばしさとは真逆で、一番フルーティーな焼酎は「黄猿」(鹿児島・小正醸造)ですね。 完熟芋というギリギリまで熟成した芋を使っているんです。魔王(鹿児島・白玉醸造)や森伊蔵(鹿児島・森伊蔵酒造)、村尾(鹿児島・村尾酒造) の3Mのような口当たりのいい芋焼酎よりも、飲みやすいですよ。「これ芋?」と、びっくりするほどフルーティーなんです。 焼酎の「入り口」として使ったらいいかな、と思います。

焼酎って香辛料と同じでどんどんエスカレートしていく

インパクトがあっておいしいお酒って、リピートがあるんですよ。「大将のオススメで」と言われて焼酎を出すじゃないですか。 そんなにインパクトがないものだと、1杯で終わります。何か特徴があると、2杯、3杯とおかわりされるんですよね。 はじめは飲みやすいもので良いと思うのですが、焼酎って香辛料と同じでどんどんエスカレートしていくんですね。そこが面白さでもあります。

日本酒は初心者も上級者も一緒なのですが、焼酎は初心者と上級者で全然違います。 初心者が最初に伊佐大泉とか八幡とか飲まされたら「芋がきつい」と言うと思います。まずは、黄猿や魔王などから入って、エスカレートしていけばいいのかなと。 焼酎は、そういう遊び方もできますからね。

幼いころから酒と言えば焼酎

僕が焼酎好きになったのは、爺さんの影響が大きいんです。103歳で亡くなったんですが、麦焼酎をよく飲んでいました。 ポットを瓶の横に必ず置いて、お湯割りで。タバコも吸っていて95歳の時に、血圧が高いからってお医者さんに止められたんですけど。 でも、婆さんの目を盗んで、外の郵便ポストの裏にタバコ隠して吸っていましたね(笑)。隠れてタバコを吸うぐらいですから、 死ぬ直前まで焼酎を飲んでいたんじゃないかな。爺さんの香りの記憶は、焼酎の香りなんです。親父も休みの日は朝から飲んでいて、 そういう環境で育ったから、幼いころから酒と言えば焼酎のことでしたね。

焼酎って長く飲める酒です

とは言っても、10代のころからバーテンダーを始めまして。酒を提供する世界に入ったのは、まずは洋酒からなんです。 でも、DNAなんですかね。焼酎に戻って来ました。洋酒はたまに飲むのはいいんですけど、普段飲むのは、やっぱり焼酎ですね。 焼酎は酔いやすくて覚めやすいじゃないですか。お客様にもそう伝えています。次の日に酒を体に残したくないのであれば、お湯割りの焼酎が一番ですよ、と。

焼酎って長く飲める酒ですよ。特に女性は長い。8時間ぐらい飲んでいた方もいました。 男の人って、大酒飲みに見えるスポーツ選手でも、飲んで1時間半~2時間なんです。最近は若者の酒離れが言われていますが、 男の子が飲まない分を女の子が補っているのかな、と思います。たぶん、女性の方がリアルに生きてるからじゃないかな。 女性のお客様に「男の子はどうしてるの?」と話を振ると、「家に帰ってゲームしているんじゃないの」だって。20~30代の女性が リアルにコミュニケーションを取っていて、そのアイテムとして焼酎を使っていますね。

「焼酎を飲むイメージ」を若い人たちに伝える

若い男性が酒を飲まないのって、僕は飲む場の雰囲気を知らなくて、酒を飲むイメージがわかないから、だと思うんですよ。 僕らの世代は先輩に飲みに連れて行ってもらって、未知の世界を味わって、それを楽しんでいたんです。 今はそういう光景も見られなくなって、若者は未知の世界を味わってない、と思うんです。 ただ、「マッサン」のブームでウイスキーが復活したじゃないですか。何かをきっかけに、お酒を飲むイメージができて、今まで経験したことのない 「焼酎を飲むイメージ」を若い人たちに伝えることができれば、バーンと焼酎ブームが来るんじゃないかな、と思うんですよね。

だから、僕は焼酎ファンを増やすために、どういう種まきをしていくのが大事なのか、というのを絶えず考えているんです。 若い人は先輩に飲みに連れて行ってもらう習慣ができたらいいな。そんなシーンをメディアやドラマで、提供できれば、 マッサンみたいになるんじゃないかな、と。

お酒は本音を引き出すアイテムの一つ

リアルな人生の中では、お酒は本音を引き出すアイテムの一つなんです。 会社の会議の決定事項や、国会で決められた法律などは、実はそれ以前に飲み屋さんとかで話し合われ、決まっていた内容だったりするわけですよ。 本音の部分っていうのは、実はお酒の席で話し合われるんじゃないかと。

うちの店に来ている人たちは、医者とか、リアルに生きている人たちが多いんですよね。 人間相手の仕事だから、正直割り切れない部分も出てくるわけで。そんな時には、お酒の力を借りて、気持ちを落ち着けるしかないのかな、と思うわけです。 そういう手法や引き出しを、若い人たちも持っていただけると、もっとリアルに世の中を生きていけるんじゃないかな。 例えばニートもお酒を飲みだしたら、変わると思うんですけどね。

お酒は前向きに生きる一つの道具

お酒は、つらい時には絶対必要ですよ。つらい出来事は、時間が解決する部分も多いです。 お酒の力を使って、つらい時間を乗り越えてしまえば、前に進めますよね。お酒はそういう部分では、前向きに生きる一つの道具になるのかなと。 溺れちゃいけませんけどね。溺れちゃいけないけど、必要なのかな、と思うんです。


プロフィール

吉田忠士さん

1970年。北九州市生まれ。 バーテンダーをへて、福岡市中央区の西中洲に「喜家」をオープン。焼酎だけでなく、博多の「がめ煮」など九州の郷土料理に造詣が深い。 店では玄界灘の魚介類といった九州産の新鮮素材を使った料理も人気。黒豚やナマコなどの高品質な素材に、一手間を加えたつまみが絶品で、焼酎が進む。