九州焼酎島

焼酎人
山崎幸一郎さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 焼酎居酒屋「博多島一」店主 山崎幸一郎さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

「焼酎って、ものすごく面白いな」

おれ、19年前に店を出した時、焼酎にこだわりがあったわけではないんです。居酒屋やるからには、店にいっぱい並べなきゃと思って。 銘柄も何でもよかったんです。とにかくいろんな焼酎や日本酒を集めたんです。 そしたら、お客さんが「これ、うまいよね。なかなか手に入らないんだよ」なんて言ってきて、「そうなんすか」って感じで。 ラベルを見てみたら「金峰櫻井」(鹿児島)。なんか興味が出てね。住所も書いてあったから、つくっている櫻井酒造さんに飛び込みで行ってみたんです。 頑固おやじでしたね。初めは「若造に何がわかるか。帰れ!」って感じでした。でも、翌日も諦めずに行ってみたら、おやじが会ってくれて。 いろいろ語ってくれて、「焼酎って、ものすごく面白いな」と。それからです。焼酎にはまっていったのは。これまでに通った蔵は100を超えてますね。

お酒は人を助けてくれるんですよ。

お酒は人を助けてくれるんですよ。ある時、一人のお客さんが、ポンとお店に来て、一杯の焼酎を頼まれたんです。 そのお客さん、すごい悩みを抱えられていたみたいで。でも、その一杯を飲んでいる間に「悩みがなくなった」と言ってくれたんですよ。 お酒って、人の悩みとかを解決できるんだ、とその時思ったんですよ。それを感じた時から、おれはお酒を出す仕事に誇りを持ったんです。

そのお客さんには「栗東」(鹿児島の白石酒造)という焼酎を出したんです。「こんなにうまいお酒があったんだ」と思われたみたいで。 その方は「この世に必要ない。もう生きられない」と思い悩んでいたみたいなんです。 でも、たった一杯の「くりあずま」を飲んで、「僕はこんなおいしい酒があるんだということに、気付かなかった。 もっと、もっと、美味しいものがこの世にあるんだと思ったら、死んだらいけないと思った」と。 後日、そんなお手紙をもらいました。

お酒は人と人との架け橋になる

「酒は人なり」という言葉がありますが、本当です。お酒は人と人との架け橋になるし、一杯の酒が人の心を開き、 話のきっかけをつくってくれる。 縁の下の力持ちなんです。その酒が日本酒でもいいんです。でも、最近の日本酒は利き酒というか、ワインのように艶がついて、味のうまい、 まずいなどの評価が強すぎる。 焼酎はまだ、その状態まで来てないじゃないですか。ないからこそ、その状態を維持しておきたい。あんまり自分に合わない焼酎でも、 すごい心を開ける人と飲んだ時に、ものすごくうまく感じる。日本酒とは違う世界なんです。もちろん日本酒も飲みますよ。 でも、ついテイスティングしてしまいますね。 でも、焼酎は利き酒みたいなことをしたくない。ただ単純に飲みたいです。

自分たちの文化に焼酎があり、飲んだ。

焼酎って語れるもんじゃないですよ。生まれた時に目の前に焼酎があり、飲める時に飲んだ。自分たちの文化に焼酎があり、飲んだ。 それだけなんですよ。これって、ものすごく大事なことなんですよ。おれが蔵元さんによく言うのが地元の人に対して絶対酒を切らすなって。 森伊蔵が地元で売っているか、と言えば、売ってないじゃないですか。高いお金を出しても、地元外の方がいっぱいあるじゃないですか。 それじゃ、寂しいじゃないですか。今現在、何で蔵が残っているのか、なんで潰れていないのか。 それは、昔から近所に住んでいる人たちが晩酌に使い、こよなく愛してきたからなんですよ。それがあるから、今も蔵が残っているんですよ。 それを忘れてはいけないんですよ。

やっぱり酒の基本は、晩酌なんですよ。

やっぱり酒の基本は、晩酌なんですよ。つっかけで買いに行って、家で飲む。 だから、おれはお客さんにも、うちの店で飲んだ焼酎がどこの店に売っているか、どうやったら買えるか全部教えますよ。 ここでしか飲めないっちゃん、とは言ってほしくない。おれのところには、焼酎との出会いを探しに来てもらい、ここで知って、 うまいと思った焼酎を晩酌に使ってもらいたいんです。 そうなれば、焼酎蔵も努力するし、残っていける。

今は週3回、晩酌していますね。飲むのは、「天狗櫻」(白石酒造)です。お湯割りにして飲む焼酎では、おれの中でナンバーワンです。 頑固な味というか、芋の香りが強いですね。白石酒造とは8年ぐらいの付き合いになるかな。 芋の収穫から、仕込み、蒸留まで、すべての工程は蔵で経験させてもらいました。 ここの若大将、自分より若いんですが、とにかく、芋の土作りから、こだわりが半端なくすごいんですよ。 しかも、熱い男なんです。近い将来、おれは1年間、この蔵に住み込んで芋の栽培から蒸留までの流れを知りたいと思っているんですよ。

もう一つの晩酌の友は、「宮の露」(宮崎の小玉醸造)です。これは、オン・ザ・ロックですね。 クラッシュ氷(砕いた氷)で飲みます。お酒の個性、いい部分がすぐに出てくるんですよ。 おれは、お酒のいいところを、一番最初に味わってもらいたいから、店でも大きな氷の塊でなく、クラッシュで出すんです。 この焼酎、飲むとすごくほっとします。天狗櫻を「土」としたら、宮の露は「葉」という感じですかね。


プロフィール

山崎幸一郎さん

1976年生まれ。福岡市出身。幼い頃から料理人の夢を抱き、21歳の時に居酒屋「博多よかよか」をオープン、品揃え豊富な焼酎が人気を呼んで福岡の焼酎ブームの火付け役になった。2014年5月、 焼酎専門の居酒屋「博多島一」を開いた。現在は日本酒販売店も含めて3店舗を経営している。