九州焼酎島

焼酎人
谷元鉄郎さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 地酒とワイン「たにもと屋」代表 谷元鉄郎さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

「うちの焼酎は正規の価格で単品売りです

たにもと屋で取り扱っている本格焼酎は、家族ぐるみのお付き合いをさせてもらっている鹿児島の7蔵のものが中心です。田崎酒造、白石酒造、大和桜酒造、八千代伝酒造、櫻井酒造、田村合名、そして中村酒造場です。

すべての銘柄を正規価格で単品売りしているんですよ。例えば、プレミアムとなっている中村酒造場の「なかむら」も1本から定価で買えます。焼酎の値段って、蔵元さんが品質に合った価格にしていると思うんです。だから蔵元さんが決めた価格のそれ以上でも、それ以下にもすべきではないかな、と。蔵とうちとの信頼関係もありますしね。

人気焼酎を他の焼酎との抱き合わせで売る方法もあるんですけど、抱き合わせにすると好きでもない焼酎を買わないといけない人もいると思うんです。だったら、好きな焼酎を2本買ってもらった方がいい。その方が、お客さんも幸せじゃないかな。

味わった焼酎でないと、お客さんにもおススメできない

仕込みの時期には、7つの蔵全部に行きます。朝礼の始まる早朝4~5時からうかがって、時には仕込みを手伝ったりしてます。やはり、今年の蔵の生きた情報が分かりますし、一生懸命につくっている蔵人の姿を見ると、店で焼酎を売るのにも力が入りますから。

たにもと屋は昭和25年創業で、僕で3代目になります。もともとは問屋から仕入れていて、銘柄も100ぐらいありました。僕の代から焼酎メーカーとの直接の付き合いを始めまして、銘柄も絞りました。自分が焼酎造りの現場を見て、味わった焼酎でないと、お客さんにもおススメできないと思うんですよ。

家業を継ぐつもりはなかった

正直なところ、僕は家業を継ぐつもりはなかったんです。鹿児島の鶴丸高校を出て東京の大学に進み、テレビ番組の制作会社に勤めたりしてました。酒屋もいいなと思ったのは、蔵元の空気を感じてからなんです。知り合いに教えてもらった櫻井酒造を訪問して、実際に焼酎造りの現場を見て、ものづくりの熱気をダイレクトに感じて。楽しいな、と思ったんです。

それからですね。蔵元に通うようになったのは。櫻井酒造の「金峰櫻井」は、代表の櫻井さんが自分が晩酌で飲みたいと思って造ってる味なんですよ。おいしいんですよね。

晩酌は焼酎

僕も晩酌は焼酎ですね。10年前にソムリエの資格を取って、おいしいと思ったら、ワインでも、日本酒でも、どんなお酒でも素直に飲むタイプなんですけど、やはり焼酎は落ち着きます。付き合いのある蔵から新商品が出たら、テイスティングをする感じで飲んでいます。焼酎って賞味期限がないし、ずっと同じ味だと思っている方もいると思うんですけど、中には味が動いていくものもあるんです。

特に、白石酒造と田崎酒造の焼酎は栓を開けたら味が動いていきます。出来たばかりの芋の甘い香りとうま味が、いい方向に変化していくんです。1ヶ月前の味とは、ぜんぜん違うんですから。白石酒造と田崎酒造は、味の動かし方が上手なんですよね。僕は香りの変化って、お酒の醍醐味なのではないか、と思うんですよね。

“宝探し”

今、おススメなのは、田崎酒造の「市来焼酎みとら」の新酒ですね。焼き芋で仕込んでいる芋焼酎です。焼き芋ならではの香ばしさ、甘みがぐっと感じられます。まるで、焼き芋を頰ばっているような味わいなんですよ。八千代伝酒造の「熟柿」もいいですよ。柿が熟する秋だけに限定発売される芋焼酎です。熟成酒だけに、やわらかさと繊細さがあります。そして、原料は芋なのに、熟した柿のような余韻を感じられます。

酒屋をやっていると、日本人の酒離れを感じます。鹿児島でも若者は焼酎を飲まなくなってきていますから。でも、たまにしか飲まないから、おいしい特別なものを買いたい、という人は逆に増えてきました。だから、たにもと屋も春に改装して試飲スペースを設け、お客さんに“宝探し”にくるような感覚を味わってもらえる内装にしてみました。

お酒って、生活を楽しくてくれる道具

僕がお客さんに焼酎を勧める時は、蔵元の人柄や合わせたい料理などの情報も伝えています。自宅までの道のりを、ワクワクしながら焼酎瓶を抱えて帰ってもらえるような提案をしたいと思って。おかげで、お店に来るリピーターの方も増えました。特に女性客が多くなったと感じています。

飲食店とコラボして、月に1回程度、「焼酎の会」や「ワインの会」を開いて、お酒のおもしろさを知ってもらえるようなイベントもしています。今後、たにもと屋も、角打ちのコーナーをつくって、“ちょい呑み”で店内のお酒を楽しめる場にしたいな、と思っているんですよ。

焼酎を含めたお酒って、生活を楽しくてくれる道具だと思うんですよね。そんなお酒の良さを伝えていきたいな、と考えているんです。


プロフィール

谷元鉄郎さん

1975年、鹿児島市生まれ。たにもと屋では「なかむら」「熟柿」「天狗櫻」「大和桜」など鹿児島の実力派7蔵の銘柄のほか、オーストラリア・ワインや日本酒も厳選したものを置く。谷元さんはマリンスポーツの「カイトサーフィン」が趣味。「風が吹くと海に出たくなって」。天気図を見ながらウズウズする毎日。