九州焼酎島

焼酎人
黒木雄一さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 宮崎県都城市の鶏料理店「ぼっけもん」店長 黒木雄一さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

幼少のころから視線の片隅には常に焼酎がありました。

宮崎生まれなので、幼少のころから視線の片隅には常に焼酎がありました。父親も親戚のおじさんも、飲んでいた酒は焼酎。 お祝いごとでも、お葬式でも、何でも人が集まれば焼酎です。みんな生(き)で飲んでましたね。 父ら昔の人は「最近の若いもんはお湯割りで飲みやがって」なんて言いますよ(笑)。

そんな環境で育ったものだから、焼酎の飲み方は生で飲むか、氷を入れるか、水で割るか。 ジョカだとか、先割だとか、いろんな飲み方を知ったのは実は、東京に行ってからなんです。 東京で本格的に焼酎の勉強をしたんです。25歳ぐらいでしたかね。

焼酎の世界が一番肌に合ったんです。

それまで、ホテルのレストランでサービスマンをやっていました。パリにも行ったし、フィリピンにも行ったし、国内も転々としました。 フレンチレストランでも、イタリアンレストランでも、中華レストランでも日本料理店でも働いています。 世界のお酒をひと通り勉強していますが、やはり宮崎出身ということもあって焼酎の世界が一番肌に合ったんです。

九州男児の隣には、焼酎はつきものですからね。

でも、正直な話、焼酎を初めて飲んだ時は「こんな臭い酒は飲めない」と思いましたよ。 臭いが嫌で。それが、何で焼酎好きになったのかって?職場の先輩と仕事終わりに居酒屋とか行くじゃないですか。 そこで、後輩の僕はお酌をするんですが、いつも先輩は焼酎をロックで飲んでいました。 飲み干す時の、氷がグラスにカシャンと当たる音がカッコイイな、男らしいな、なんて思い始めまして。 いつの間にか、好きになってましたね。九州男児の隣には、焼酎はつきものですからね。

お気に入りの焼酎は「月の中」です。

今でも飲み会で飲む酒は、焼酎です。宮崎、しかも霧島酒造のある都城に住んでいるので、芋焼酎の黒霧島を飲むことが多いですが、 お気に入りの焼酎は宮崎県西都市にある岩倉酒造場の「月の中」です。この芋焼酎の先割り焼酎がむちゃくちゃ美味しいです。 焼酎はそもそも水でアルコール度数を調整しているから水割りなんですよね。25度の「月の中」をミネラルウォーターで先割りして、5日ぐらい置くと、 かなりまろやかになってうまいんですよ。

僕の中で「月の中」の先割りは、スタンダードなんですよね。楽しい時でも、辛い時でも、隣にいて邪魔をしない。 脇役として、しっかり仕事をしてくれる感じですかね。他の人と話をするときに、何の酒があったらいいか、と考えると焼酎なんです。 「月の中」は会話の邪魔をせず、人と人とをつなげてくれるんです。

焼酎が、人と人をつなげてくれたエピソードがあります。

焼酎が、人と人をつなげてくれたエピソードがあります。7、8年前のことです。 「ぼっけもん」は当時、東京・高田馬場にあったんです。そこで、いつも霧島酒造の芋焼酎「吉助」を頼まれる、 ちょっと若々しい感じの常連の男性客がいらっしゃいました。 いつも同じ女性客と来店、その女性客をカウンター席で焼酎片手に熱心に口説いていて。 いつも不意に来店されるので名前も知らない。だから、従業員の中でアダ名を付けたんです。まだ男性は若かったんですけど、 吉助ばかり飲んでいたから「吉助のお父さん」と。

去年のことでした。宮崎・都城に移転した「ぼっけもん」に、「吉助のお父さん」が突然来られたんです。 奥さんと息子さんを連れて3人で。高田馬場で口説いていた女性が、今の奥さんになっていました。 「吉助のお父さん」は「高田馬場のぼっけもんがなかったら、自分は家族を持てなかったんですよ」と僕に話してくれました。 そして「子どもができたら宮崎のぼっけもんに家族で行くのが夢だったんです」と。

わざわざ神奈川から来てくれて、うれしかったですね。まさか再会できるとは思わなかった。 この商売をやっててよかったな、とすごく励まされましたね。「ああ、ぼっけもんを続けててよかったな」と。

焼酎に囲まれた今の僕は、仕事がとても心地良いんです。

僕は、焼酎を飲んでいる人の姿を見て、すごく落ち着くんですよね。素が出せるし、素を見れる。 焼酎は自分の暮らしと同じような暮らしをしている人たちが飲んでいるからなんです。

僕はワインも日本酒も焼酎も勉強しました。パリなど世界で働いてみて、お酒の出るシーンを、いろいろ見てきました。 その中では、僕の給料じゃ食べられないようなフランス料理を食べ、僕の給料じゃ買えないような高級ワインを飲んでいる人もいました。 正直、一般の人たちにはリアルに想像できないし、伝えづらい世界だったんです。

焼酎に囲まれた今の僕は、仕事がとても心地良いんです。幼いころから常に身近な焼酎という存在が、居心地を良くしてくれるんですよね。


プロフィール

黒木雄一さん

1982年、宮崎市生まれ。 ホテル日航のパリや東京などのレストランにサービスマンとして勤務。焼酎、日本酒、ワインのそれぞれの資格を取得し、酒には造詣が深い。勤務して9年目になる「ぼっけもん」は、都城育ちの「霧島鶏」を扱い、炭火焼きは人気。新鮮なので刺し身も美味。本場宮崎の鶏料理をつつきながら、品ぞろえ豊富な焼酎を楽しめる。