九州焼酎島

2016/12/26

蔵元探訪 | 大和桜酒造(鹿児島県いちき串木野市)

苦労は見せず、かっこよさを見せる

「大和桜」の杜氏、若松徹幹さん

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大和桜酒造の杜氏、若松徹幹(わかまつ・てっかん)さんに会ってみたいと思っていた。広告代理店出身で、DJのようにキャップをかぶって、メディアにも多く登場している。一見、“チャラい”雰囲気を感じさせるのだが、芋焼酎「大和桜」は、かめ壺仕込みなど武骨なまでに昔ながらの手づくりにこだわっている。今風でもあるし、アナログでもある。そのギャップにとても興味を持ち、蔵のあるいちき串木野市に車を走らせた。

道を挟んで、「赤兎馬」で知られる濱田酒造の大きな観光蔵があった。対照的に、かめ壺が地面に埋め込まれた小さな手造り蔵。車を止めると、徹幹さんがにこやかな表情で出てきた。

クレイジーだと思われていますよ(笑)

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「みんながしないことをしようとするから、クレイジーだと思われていますよ」。開口一番、徹幹さんは、そう言って、笑った。

確かに、カクテルのような柑橘を絞った焼酎など、新感覚の飲み方を提唱してみたりといろいろやっている。大和桜酒造のホームページを見ても、変わってる。動画が流れているだけ(2016年12月現在)。「よか晩な~」というテロップが流れた後、おしゃれな家に仲間たちが集まって、おいしそうな料理を食べながら、「大和桜」で飲み会している。商品の説明は一切ない。

ただ、楽しそうだ。楽しい飲み会の中にさりげなく「大和桜」が登場する。

「こだわり」から「かかわり」「つながり」へ

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とにかく今の焼酎メーカーは、どれだけ原料や製造方にこだわって造っているのかを強調したがる。でも、「今は、コンビニのおにぎり一つにもストーリーがあって、こだわりがある。もう、こだわっている、というアピールだけでは通用しないと思うんです」と徹幹さん。「僕は今、『こだわり』から、『かかわり』『つながり』を大事にしています」

造り手が一生懸命なのは、どの蔵も同じ。焼酎が生活にどうつながっているのか、どうかかわっているのか、動画から想像してもらう。ライフスタイルをとても大事にしている人の家に「大和桜」が置いてある。かっこいいな。そう思ってもらえたら、うれしい。使い古された言葉かもしれないが、徹幹さんは自らつくる芋焼酎を通して、「ライフスタイル」を売っているのだ。

「よか晩」という鹿児島方言を流行らせたい!

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徹幹さんの発信している「よか晩」という言葉も、「かかわり」「つながり」が意識されている。鹿児島弁で「こんばんわ」「いい夜ですね」などの意味で、親しき仲間と「よか晩なぁ~」と声を掛け合いながら、焼酎で乾杯する。そんな楽しい夜のひと時を提唱しているのだ。

ヒントは知り合いのコーヒー屋さんの言葉。コーヒを一杯数百円で売っているのではなく、数百円でコーヒーブレイクという時間と空間を売っているんだ、と。

「楽しさ、うれしさ、愛おしさといった瞬間を、仲間と分かち合える『よか晩』という言葉で、つながっていく鹿児島の人たち。このローカルスタンダードな言葉がまるで、喜びや楽しみを「シェア」して人々をつなげるSNSの様に感じて。この魅力的な言葉を世界標準にしたいな、と思ったんです」

僕は2016年版の吉田松陰のような立ち位置です(笑)

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徹幹さんは鹿児島を中心とした焼酎蔵の若手チームの一員である。「SHOCHU MAKERs」という各蔵元を集めたチームをつくり、徹幹さんの提案でおそろいのちょっと洒落た服を新調して、東京のイベントに出たりしている。ライバル関係にある蔵の若手に、自らの経験や持っている情報は惜しみなく話す。

「中村酒造場の中村君、黒木本店の黒木君、万膳酒造の万膳君、小牧酒造の小牧君らは、焼酎界の有望な若手で、次の維新の志士だと思います。ちょっと年上の僕は、吉田松陰のような立ち位置。彼らに生き様を見せ、屍を乗り越えてもらうパターンです(笑)」

「暗黒の5年間」を経て、シェアする大切さを実感

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とは言え、故郷に戻った当初は、他人を蹴落とすことしか考えられなかった。東京でマーケティングのプロとして活動していたから「世の中のトレンドだとか、物を売るための手法だとかばかり見てました」と振り返る。「正直、他のメーカーを見ていて、お前ら間違っているよ、とばかり思ってました」。大和桜酒造だけが生き残ればいいと思っていた。東京だけを見ていた。自ら「暗黒の5年」と呼んでいる時代だ。

5年ほど前、突然情報が入らなくなった。世の中のトレンドがわからない。そんな時に、家具屋や花屋、コーヒー屋などの異業種の人たちと交流する機会に恵まれる。「成功している人たちが、立ち話の中ですごいヒントをくれるんですよ。しかも、タダで。いい情報をどんどん、他の人とシェアするんです」。衝撃を受けて、ふと気づいた。「情報はこちらから出さないと、向こうから入ってこないんだ」と。

松蔭の名言「諸君、狂いたまえ」を実践

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帰郷して11年が経った今、いい意味で「脱マーケティング」の自分を感じている。「昔の僕なら、中村君たちと話もしてないですよ。今では、僕が彼らに思いをシェアすることで、彼らの心に火がつく。互いに切磋琢磨して、結果的に焼酎界が活性化する。スティーブ・ジョブズに例えてくださる方もいますが、やっぱり僕は2016年の吉田松陰的ポジションです(笑)」

目立つことをやっているから、誤解や偏見を招くことも多いかもしれない。だから、明治維新の志士を育てながらも処刑されてしまった「吉田松陰」に自らを例えている。

松蔭の名言が「諸君、狂いたまえ」、ジョブズの有名なスピーチに出てくるのが「Stay foolish(バカであれ)」。徹幹さんの思いは、常識にとらわれず、自らの信じる道を進むことなのだ。

だから、イベントにしろ、メディア露出にしろ、「今っぽいことをやっていて、そのことを揶揄されるとわかっていても、やれることは全力でやる。そうやって、世間に本格焼酎そのものの新しい魅力、視点を浸透させていく。それが僕なんです」

ストイックな焼酎造り

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もちろん、焼酎造りも全力でやっている。蔵をつないでくれた先人にリスペクトしながら、手づくりの製法を守り抜いている。体力勝負の世界だから、体も鍛えている。実は、ストイックな生活をしている。

そんな苦労は、あまり表に出さない。でも、知っている人たちは彼を慕い、集まってくる。

「若松徹幹」という男は一見、派手に見えて、実は土と汗にまみれた男臭さを感じる。話しているうちに、何だか、かっこよく思えてきた。そんな彼がつくっている芋焼酎が「大和桜」だった。

大和桜酒造

鹿児島県いちき串木野市湊町3丁目125番

0996-36-2032

嘉永年間創業。芋焼酎「大和桜」のラベルデザインは、NHK連続テレビ小説「マッサン」で知られる「ニッカウヰスキー」のラベルデザインを手掛けた故・大高重治氏の最後の商業作品。徹幹さんの父のつてで、つくってもらったという。焼酎人に登場したアメリカ人の“焼酎オタク”、スティーブン・ライマンさんも大和桜酒造で毎年、蔵仕事を手伝っている。


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