九州焼酎島

焼酎島,天盃,麦焼酎,新酒,福岡
2017/09/04

天盃(福岡県朝倉郡筑前町)

もうかるための焼酎造りは辞めた。

胸を張れる焼酎造りを始めた。

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天盃の蔵と4代目の多田格さん

九州最大の穀倉地帯、筑紫平野の東側に位置する福岡県朝倉郡筑前町。米や麦の栽培が盛んな土地に、明治31年(1898年)から100年以上にわたって焼酎専業の蔵「天盃(てんぱい)」はある。麦焼酎の可能性を追求し、麦焼酎しか造らない。かつて「儲かるための焼酎造り」に走った蔵は今、「みんなに胸を張れる焼酎造り」を続けていた。

麦にこだわる

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焼酎の原料となる大麦

「天盃は地域によって生かされています。だから、原材料も筑紫平野で収穫された麦を使います。僕たちは麦から逃げたくない。誰に対しても胸を張れる、麦焼酎専門のメーカーであり続けたいと思っています」。天盃の4代目社長、多田格さんは熱く語った。地元は、春には一面、麦畑。生活の中に麦がある。そして、地元の食には麦焼酎が合い、地元の人が飲んでくれるからこそ蔵は続いてきた。だから、決して芋などに浮気はしない。

2度の蒸留が「天盃スタイル」

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蔵の中には2機の常圧蒸留機

天盃の麦焼酎の特徴は、2度の蒸留にある。「天盃の焼酎の味と香りのすべてを左右する、最も重要な工程です。伝統的に2度の蒸留をしているのは、うちの蔵だけじゃないでしょうか」と格さん。常圧蒸留機で一度蒸留した焼酎を再び、蒸留する。同じ蒸留酒のウイスキーやブランデーでは一般的な方法だというが、焼酎では珍しい。

海外のすぐれた製造方法を取り入れれば、海外のすぐれた蒸留酒に負けない麦焼酎ができるのでは。そう考えた先代の父、雅信さんが始めたという。何とも先進的で意欲に満ちた蔵だと思っていたら、昔はそうでもなかったらしい。

家業が嫌だった父

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100年以上の歴史ある蔵に近代的なステンレスタンクが並ぶ

「父は家業が嫌で、本気で蔵を潰そうと考えていたんです」。どうせ、潰すのなら、儲かってやろう。焼酎が好まれるのは、甘さ。では、砂糖を入れよう。さらに、飲みやすくするために、炭素やイオン交換樹脂などの薬品加工をしてみよう。そんな焼酎造りは実際に、儲かったそうだ。

でも、父は儲かるための焼酎造りを辞めた。「私が生まれてからですね」と格さん。雅信さんは、息子に胸を張れない焼酎造りはしたくない、と思ったそうだ。1970年4月から、糖分添加などの“後ろめたい”ことを辞め、原料・仕込み・蒸留だけで麦の風味を活かす、完全無添加の本格焼酎造りに変えた。

麦100%焼酎のパイオニア

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代表銘柄の「天盃25度」

そして1975年には、大麦100%の焼酎「天盃」を完成させる。常圧蒸留で、原料、麹ともに麦で造られた焼酎は、日本で初めてだった。

100%麦焼酎は、今では大分で主流だ。ただ多くの蔵が減圧蒸留で、すっきりと飲みやすく仕上げている。一方で、天盃が用いる常圧蒸留は、原料の個性が出やすく、どっしりとした味わいが特徴。個性を残しつつ、食中酒としての飲みやすさも追求した結果が、2度の蒸留だった。1度目でどっしり、2度目で軽やかさが出る。「天盃の焼酎は常圧と減圧の中間ぐらいの味わいですかね」と、格さんは説明する。

2度も沸騰させるわけだから、焼酎の量は当然少なくなる。つまり、原価率が悪く、儲けは少なくなる。でも、納得できる焼酎ができる。何よりも、飲んでくれる人たちに、胸を張って、おススメができる。

父の意志を引き継ぐ4代目

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蔵自慢の麦焼酎を持って笑顔の多田格さん

そんな雅信さんの後ろ姿を見て育った格さんが、父の志を引き継いだのは「必然的なことだった」と言う。大学で微生物を研究し、東京の酒販店に2年勤めた後、20歳代半ばで蔵に入った。蔵仕事の中で「天盃スタイル」を守りつつも、その時代のニーズに合った、うまい麦焼酎の味を追い求めてきた。

麦焼酎で革新、オンリーワン目指す

日本酒の技法取り入れ、新酒メインに

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蔵の中は麦焼酎のいい香りが漂う

麦焼酎しか造らないから、麦焼酎の革新を続けていく。例えば、麹と酵母の相性を徹底的に調べ、清酒用の吟醸酵母を使い始めた。それをきっかけに日本酒の技法を取り入れ、食事との相性を考えた商品を発売している。

他の麦焼酎蔵が長期熟成にこだわる中、天盃は1年ぐらい寝かせた“新酒”をメインで押している。それは、長期貯蔵酒をメインにすると、革新ができなくなるからだ。

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付近の美しい景観に配慮して貯蔵タンクは表から見えない

「本格麦焼酎の革新によって、未来が開けるし、それが『天盃流』なのかなと思っています。僕たちの蔵が生き残っていくには、ナンバーワンより、オンリーワンの麦焼酎にならないといけない。だから新酒を出すし、蒸留方法も独自のやり方にこだわります。他の蔵とは違う山をつくり、その山頂に立ち続けたいと思っています」

蔵の経営には当然儲けも必要だが、同じくらいに焼酎の造り手としての矜持は大切にしたい。格さんの息子も社会人になり、52歳の4代目は今、父が焼酎造りの方針を一変させた気持ちが痛いほどわかる。次の蔵の担い手へ、誇りの持てる仕事をつないでいかねばならない。そして、革新を続けていく。「天盃スタイル」は、これからも変わらない。

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天盃

http://www.tenpai.co.jp/

福岡県朝倉郡筑前町森山978

0946-22-1717

定番商品の「天盃」は15度~40度までとアルコール度数もさまざま。新酒がメインだが、3~10年の熟成酒も販売している。3年熟成の「天盃 博多どんたく」はANA国際線ファーストクラスの機内食ドリンクに選ばれたこともある。


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