九州焼酎島

2016/10/11

ゆったり焼酎日和 | 第24回 焼酎と長期熟成

最近、福岡の二つの焼酎蔵を訪れた。ゑびす酒造(朝倉市杷木)と紅乙女酒造(久留米市田主丸町)である。

二つの蔵には共通点がある。長期熟成焼酎にこだわっている、ということだ。ウイスキーのように木樽に原酒を貯蔵したり、かめ壺で原酒を寝かせたりして、ゆっくりと焼酎を熟成させている。いわゆる、古酒である。

焼酎蔵を見学したことのある人なら知っているかもしれないが、蒸留したての原酒は正直、おいしくない。尖っているという表現がしっくりいく。口の中を刺す刺激が強烈なのだ。この尖りを削っていく作業が貯蔵、熟成なのである。寝かせることで、酒の尖りが削れ、まろやかな口当たりになる。

長期貯蔵には、麦焼酎が向いているという。ゑびす酒造の代表銘柄「らんびき」は麦焼酎だし、「紅乙女」は胡麻の焼酎だが、ベースになっているのは麦である。確かに鹿児島や宮崎の芋焼酎で、長期貯蔵というのはあまり聞かない。ウイスキーがそうであるように、麦が原料の蒸留酒はゆっくり寝かせることで、うまくなるのだろう。

焼酎ブームが落ち着いた中で、長期熟成焼酎は今後、最も伸びしろを秘めた焼酎ではないか、と思っている。

原酒を寝かせるためには、広いスペースが必要だし、そのスペースは長期間埋まるわけだから、大量に製造ができない。熟成させるにも時間がかかるから、一般消費者の手元に届くのは、蒸留してから5年以上かかったりすることは、普通の話である。利益を追求するなら、割のいい製造方法ではない。

でも、二つの蔵は長期熟成にこだわってきた。だからこそ、時間をかけてつくってきた、自慢の長期貯蔵酒を多くストックできている。紅乙女には約30年の原酒が眠っているとか。他の蔵が今、真似しようと思っても、絶対にできないのである。

可能性を秘めているというのは、その希少性なのだ。希少であるし、うまい。

ゑびす酒造では、大麦麹の全麹仕込みでつくった7年物の焼酎のストックが底をつくとか。残り最後の原酒を「全麹ゑびす蔵7年古酒」として、予約販売している。まさに「希少」な焼酎である。

(渡邊精二)


<
>