九州焼酎島

焼酎人
今田篤子さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 蒸し料理専門店「musmus」店長 今田篤子さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

芋焼酎が一番おいしかった

私、けっこうな焼酎マニアなんです。焼酎歴もまだブームが来てない時からなので、15年以上になります。 でも、実は私、お酒を飲めないんです。舐める程度ですかね。アルコールが駄目なのに、なぜ焼酎を応援するかと言えば、 やはり飲食店をやっているからでしょうかね(笑)。

焼酎との出会いも、飲食店がきっかけなんです。東京・新橋にあった豚肉料理専門店に勤めていまして。 何が豚の料理に合うか、いろんなお酒で試したんです。日本酒はいまひとつで、ウイスキーも何か違う。飲み比べていたら、芋焼酎が一番おいしかったんですよ。

で、お店で芋焼酎を売ろうとなったのですが、当時の東京のサラリーマンは「何でおれに、こんな臭い酒を飲ませるんだ」って。 焼酎といえば、甲類しか飲んだことのない人たちばかりで、東京では芋焼酎が見向きもされてなかったんです。 だから、お客様に「騙されたと思って、ちょっと一杯飲んでみて」と勧めたら、豚肉料理と相性がいいから「うまいね」と言ってもらえて。 ちょっとずつ、店で焼酎が流行っていったんです。

女性のお客様が多いのですが、けっこう焼酎を飲まれます

ムスムスでは、あっさり目の蒸し料理がメインなのであまりクセが強い焼酎はないですが、インパクトがある程度あって、 飲みやすいものを並べています。 焼酎ビギナーの人に、焼酎の世界に入ってもらって、そこから世界を広げてもらいたいと考えているので、飲みやすい焼酎からある程度マニアの方にも 喜んでもらえる焼酎まで、そろえています。有名どころの芋焼酎「佐藤黒」(鹿児島・佐藤酒造)や、米焼酎の「山翡翠」(宮崎・尾鈴山蒸留所)、 麦焼酎の「中々」(宮崎・黒木本店)など素材を大事にされている酒蔵の焼酎があります。

女性のお客様が多いのですが、けっこう焼酎を飲まれますよ。ムスムスでは芋焼酎の松露(宮崎・松露酒造)とミネラルウォーターの 温泉水99(鹿児島)を6対4で割って、カメで一晩以上寝かせた焼酎も出しています。柔らかい、飲みやすい焼酎になって人気です。

私、焼酎に頑張ってほしいんです。

私、焼酎に頑張ってほしいんです。日本酒好きな人は、味の差がわかりやすいから、面白くて飲むと思うんですよ。 でも、焼酎の味の差って、飲み比べしないとわかりにくくないですか? これでは、いつか焼酎離れが起こるなと思っていたら案の定、 今は日本酒にブームを持って行かれている状況です。焼酎の味の差の違いがわかりにくいな、と思っていた時に、常圧蒸留の焼酎に出会って。 「長雲一番橋」(鹿児島・山田酒造)という黒糖焼酎なんです。

「長雲一番橋」はフルーティーで、素材の味がすごくする焼酎だと思ったんです。何でかな、と思っていたら、 常圧蒸留で造っていて。素材というものに、すごくこだわっていることがわかったんです。 常圧蒸留って、古くから行われている伝統の焼酎蒸留方法。原料の風味が引き出され、焼酎の個性がはっきりします。素材自体がよくないと、おいしくならない。 悪い素材を使えば、悪いところが出てくる。だから焼酎は飲みにくくて、臭いという人たちがいたのだと思います。

ただ、一時の焼酎のブームに火を付けたのは減圧蒸留なんですよね。焼酎がクセのない味になります。 敬遠されていた焼酎臭さが消え、飲みやすいんです。でも私、減圧蒸留が悪いとは思わないんですけど、 焼酎が今の日本酒に対抗しようと思ったら、常圧蒸留だと思うんです。

常圧蒸留の焼酎をアピール

今、常圧蒸留が忘れ去られようとしているんです。「ちょっと待ってよ」と思って。 たぶん、減圧蒸留の焼酎の方が売れるから、多くの蔵元さんは減圧蒸留にしてしまうんだろうけど、「そうじゃないよ」って言いたい。 意識が高い蔵元さんって、常圧蒸留もやろうとするんですよ。米焼酎の「極楽」という銘柄を造っている熊本の林酒造場。すごく小さな蔵なんですが、 ラベルに常圧蒸留とちゃんと書いている。分かっている蔵は、常圧蒸留をPRされているんですよね。

私は今、常圧蒸留を流行らせようと思っているんです。こんなに造り手の思いや素材の良さがダイレクトに出る製造方法が あるのなら大事にしたらいいじゃん、って。今、売れる焼酎ではなく、100年後まで美味しいと言われる焼酎を造る基盤づくりが必要なのではないか、 って。そのための手助けが少しでもしたいから、お客さんには減圧蒸留の焼酎よりも先に、常圧蒸留の焼酎でテイスティングしてもらおうと思っているんです。

「一生懸命に頑張って焼酎造りをしている生産者さんがいるよ」と常圧蒸留の焼酎をアピールし続ければ、 もう一回、焼酎ブームが来るはず。そう私の中で勝手に想像しているんですよ。


プロフィール

今田篤子さん

1973年。千葉県市川市出身。20代前半に飲食関係の会社に入り、焼酎の魅力を知る。東京駅前の新丸の内ビルディング7階にある、 蒸し料理専門店「ムスムス」では全国各地のこだわりの生産者から食材・調味料を集め、ヘルシーなランチも人気。焼酎、日本酒とこだわりの銘柄が並ぶ。