九州焼酎島

焼酎人
藤根力さん

「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。
~ 薩摩恵比寿堂社長 藤根力さん ~

本格焼酎をお客に振る舞う人たちがいる。
飲食店や酒屋。彼ら、彼女らは、味に敏感だ。ブランドにとらわれず、自らがおいしいと思える焼酎を常に探し求めている。
「売る人」たちが、今惚れ込んでいる焼酎を語る。

芋焼酎嫌いだった僕が芋焼酎を売っている不思議

芋焼酎は大っ嫌いだったんですよね。

僕は岩手県花巻市の出身。成人するまでずっと東北で生活してきたものだから、焼酎といえば甲類です。レモンサワーなどの酎ハイをよく飲んでいました。ワインや日本酒も山のように飲みます。でも、2004年に鹿児島に来たら、飲食店は僕の飲めないお酒ばかり。本当に困りました。

甲類は当然、なくて。麦焼酎は好きなんですけど、麦なんて鹿児島のお店は置かない。一回、レモンサワーを頼んだら、なんか変なにおい。店員に聞いたら、芋焼酎で割ってるって。驚きましたよ。

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そんな僕が芋焼酎を売っているわけですから不思議ですよね。代表をしている「さつまゑびす堂」は通信販売の酒屋です。焼酎、ワイン、ウイスキーを「酔神(すいじん)」というブランドで全国の飲食店に売っています。飲食店のプライベートラベルを貼って。

焼酎は鹿児島の三和酒造、神酒造、天星酒造と他に5蔵、いずれも、こだわりを持った酒蔵のものです。一般小売はしていません。独自のルートのみで販売しています。

鹿児島生活13年で芋焼酎が飲めるようになりました!

実は、鹿児島生活が13年も経つと、さすがに芋焼酎も飲めるようになったんです。好きな芋の銘柄もできたんですよ。本当です。

生意気言うようですけど、鹿児島の人が芋焼酎を紹介するよりも、花巻出身の芋焼酎が苦手だった僕が紹介したほうが客観性はあると思うんですよね。鹿児島の人はずっと芋焼酎が好きで飲んでいるわけですから、自分の好きなものばかりを押しちゃう。

僕らはある意味、お客さんが「こういう焼酎が飲みたい」と悩んでいる時、きちんと方向性をしめすことができます。客観的に芋焼酎を見ることができるので。焼酎に対して、個人的なこだわりがない、東北人だからこそできることかもしれませんね。

蔵が伝えきれない良さをアピールする!

とは言え、「酔神シリーズ」は、僕が飲んでおいしいかなど重視していません。蔵元の方を信じて売っています。こだわって造っている蔵元だから、味は良いに決まってます。いい蔵元がお客様に喜んで飲まれてる焼酎を造っている。それで、いいわけです。これは本音です。

僕らは、良い蔵元が造ってくれた焼酎を、お客様にうまくアピールする。蔵が伝えきれていない商品の良さを掘り下げて、お客様に伝え、販売していくのが、さつまゑびす堂の仕事だと思っています。

今や「酔神」の売上4割が麦焼酎

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発売当初は芋焼酎しかなかったんですけど、お客様も増えてきたので、僕は「次は麦を出しましょう」と提案したんです。そしたら、「麦なんて誰が飲むんだ。飲むやつなんていない」と鹿児島の人に言われたんですよ。カルチャーショックを受けましたね。「えっ? 麦しか飲まない地域もあるんですけど」と。鹿児島で麦を説得するのはそうとう時間がかかりましたね。今では焼酎の売上の4割が麦焼酎なんですよ。

一度、鹿児島の蔵に眠っていた17年ものの麦焼酎を売ったことがあるんです。蔵元さんからすれば、麦焼酎をどうやって売ったらいいのかわからないわけです。鹿児島では飲まれないわけですから。まさに造ったは良いものの負債みたいなもんですよ。でも、僕からみたら、こんな良いものが眠っていたなんて。まさに宝だったわけです。

ハイボールブームもあって、全国に売り出すと即完売しましたよ。良い商品を消費者にうまくピーアールして売る。これこそが、われわれのミッションなのだと改めて実感しました。

鹿児島生活はむちゃくちゃ快適

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鹿児島の生活は、むちゃくちゃ快適ですね。花巻から来た当初は3月ぐらいから夏かと思いました。2月くらいから汗が止まらなくて。このまま行くと4月には死ぬなと思いました(笑)。地元から友だちがきて、「暑い」と言って、3月なのに半ズボン姿で街に出ましたよ。その時期、半ズボンを履いている人なんて、鹿児島の街にはいませんでしたねえ。今は体が順応したんで、やりませんけどね。

鹿児島は、東京から来た人から決まって「思ったより都会だ」と言われます。都会なのに海と山という自然が身近にある。こんなに良いバランスな都市は、日本中探してもないと思う。

この仕事して、日本全国の飲食店を回らせてもらったんですけど。街の活気は主要都市をのぞいたら、トップクラスです。繁華街に人はあんなにいませんよ。深夜なのに、天文館のネオンの下に人があふれている。すごくいい光景だなあ。僕たちの仕事は飲食店が潤ってくれないと、いけないから。にぎわっているのを見るとうれしくなるんですよね。

酒に酔って神が降りてきた成人式

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若者の酒離れが深刻だという話も聞きます。僕はお酒がもたらす幸せもあると思うんです。さつまゑびす堂が売っている「酔神」は、読んで字のごとく、「酔ったら神が降りてくる」の意味。酔わないと降りてこない自分の本性、相手の本性を知ることって、楽しいなと思うんです。

お酒のことを話していると、20年以上前の成人式前夜のことを思い出します。男友だち6~7人で酒を飲んで、みんなグテングテンに酔っ払って。「そう言えば、親にありがとうって言ったか? やべえぞ。感謝言ってないよな」という話になったんです。

みんな親のこと頭に思い浮かべると、感極まって、涙が止まらなくて。親を叩き起こしてでも「今まで育ててくれてありがとうと言おう」と気持ちが盛り上がったんです。すぐに、タクシーを呼んで、自宅に帰りました。午前2時ぐらいだったと思います。

酒の力を借りて、親に「今まで育ててくれてありがとう」

僕は泣きながら、親に「ありがとう」を言った思い出があります。おふくろの目から涙がこぼれ落ちたことを、今も思い出しますね。

今なら、絶対できませんよ。20歳の多感な時期に、お酒の力を借りられたからこそ言えたことです。まさに、酔って「神」が降りてきてくれたんだなあと、思うんです。

ほんと、お酒があって良かったなあ。


プロフィール

藤根力さん

1975年、岩手県生まれ。地元花巻市の携帯電話などを販売する会社でコールセンターの責任者を務め、2004年に取引先だった鹿児島の健康食品会社に役員として就任。同社の酒類事業部が分社化して、現在の薩摩恵比寿堂に。代表として新製品の開発の先頭に立つ。全国のスナック巡りが楽しみ。