九州焼酎島

焼酎人
スティーブン・ライマンさん

「伝え人」たちが、焼酎の魅力を語る。
~ 米国人の焼酎伝道師 スティーブン・ライマンさん ~

大好きな本格焼酎の良さを、たくさんの人に知ってもらいたい、と活動する人たちがいる。
世界に向けて焼酎を発信する人。大学で焼酎を学び、同世代の女性に広めている人。
こだわりの焼酎を造っている人。そんな「伝え人」たちが、焼酎の魅力を語る。

焼酎オタクだから1000銘柄は飲んだかな

これまでに飲んだ焼酎の銘柄の数は、1000ぐらいかな。なんたって、僕は焼酎オタクだからさ(笑)。でも、すべての銘柄の名前は、さすがに覚えてないよ。

お気に入りの焼酎も多すぎて選べないなあ。天狗櫻(白石酒造)に六代目百合(塩田酒造)でしょ、鳥飼(鳥飼酒造)でしょ、伊佐大泉(大山酒造)に大和桜(大和桜酒造)。ほんと好きな焼酎がいっぱいありすぎるよね(笑)。

焼酎との出会いは2008年のことなんだ。ニューヨークのスペイン・タパスの店で飲んだ後、IZAKAYAに立ち寄った。居酒屋「天」という店なんだけど、焼酎ボトル1本が18ドルのキャンペーンをやっていたから、安いし、飲んでみたんだ。初めての焼酎は、麦焼酎の「いいちこ」(三和酒類)だった。アメリカの酒税の関係で、アルコール度数は24度。それをロックでクイッと喉に流し込んだ。おいしかったよ。日本酒は飲んだことがあったけど、ちょっと甘すぎるなと思っていたんだ。日本の新たなお酒のことを知って、新鮮な気分だったよ。

お湯で酒を割る文化なんて、アメリカにはないから最初はびっくりしたよ。

もともと、ウイスキーやジン、ラムなどのアルコールの強い酒が好きだったんだ。だから、焼酎はぴったり。それに、米や麦、芋などバラエティー豊かな味が楽しめると聞いたら、気持ちがワクワクしてきた。しかも、どんな食べ物とも一緒に食中酒として楽しめるから、すっかり気に入ってしまったんだ。

それからだね。僕のオタク心に火がついたのは。インターネットを使って独学で焼酎の勉強を始めたんだ。サイエンティスト(スポーツ医学の研究者)だから、調べるのも、勉強も得意なんだよ(笑)。毎週のように、「天」にも通ったね。いろんな焼酎を飲んだなあ。芋焼酎は「白波」(薩摩酒造)、米焼酎は「しろ」(高橋酒造)、黒糖焼酎は「じょうご」(奄美大島酒造)、そして泡盛の「瑞泉」(瑞泉酒造)だったかな。はじめは全部、ロックで試していたけど、冬になってお湯割りになったなあ。芋焼酎のお湯割りは最高! お湯で酒を割る文化なんて、アメリカにはないから最初はびっくりしたよ。焼酎を飲みだしたころは芋の香りが苦手だったんだけど、今では一番お気に入りが芋さ。

僕は居酒屋カルチャーが好きなんだ。

僕は居酒屋カルチャーが好きなんだ。バーみたいに静かに酒を飲む場所よりも、焼酎を囲んで、友達とワイワイ、ガヤガヤと飲んだほうが楽しいじゃない。よか晩(鹿児島弁で楽しい夜)だよね。そんな焼酎を中心としたカジュアルな世界が好きでたまらなくて、通っているんだ。今の生活は、昼間はメディカル・リサーチャー(医学研究者)としてパソコンに向かい、夜は焼酎オタクに変身しているよ(笑)。

ニューヨークで居酒屋はとってもクールな(かっこいい)場所なんだ。

実は「天」はもうなくて、「十番」に名前が変わった。ニューヨークも“IZAKAYAブーム”で50軒ぐらいの居酒屋があるんだけど、若者であふれているよ。日本だとおじさんのイメージなんでしょ。でも、ニューヨークで居酒屋はとってもクールな(かっこいい)場所なんだ。そして、居酒屋には焼酎が合うんだ。「居酒屋」と「焼酎」の二つは最強のタッグ。居酒屋文化は焼酎なしには始まらないんだ。そこから、アメリカ人の間にも、焼酎が認知されていくと思っているよ。

今は月に2~3回、ニューヨークでバーテンダーをして、焼酎をアメリカの人たちに紹介する活動をしているんだ。女性は、紅芋の焼酎が人気なんだ。大和桜の紅芋とかね。飲み方は、ソーダー割りや水割りを好むね。男性はいろんな種類の焼酎を、ロックで飲んでいるね。

「職人魂」に感動

僕はこれまで12回、来日しているんだけど、そのうち11回は焼酎絡みさ。好きが高じて、ぜひとも焼酎を造ってみたくてさ。毎年、鹿児島の大和桜酒造に泊まり込んで焼酎造りを学んでいるんだ。蔵に入って「職人魂」に感動したね。蔵人たちは手づくりで、手間ひまかけて、こだわりの焼酎をつくり上げていた。

とにかく蔵での仕事はハードだね。ニューヨークでは体を動かさない仕事だけど、鹿児島では筋肉痛さ。でも、焼酎造りは体力的にはしんどいけど、手足を動かしていると頭がスッキリしてくるんだ。そして、いつの間にか、ストレスがなくなっているんだ。

「焼酎オタク」の域を越えた「焼酎男児」

はじめの年は1週間、次の年は10日間、その次も10日間、さらに次の年は3週間と、蔵にいる期間も長くなっていってね。当初はインターン(実習生)だったんだけど、すべての製造工程を経験して、いまではアシスタントに格上げされたと思っているよ(笑)。

今では焼酎造りのすべてのプロセスを知っているから、ニューヨークでも設備さえ整っていれば、焼酎を造ることができると思うよ。だから、僕は「焼酎オタク」の域を越えて、今では自分のことを「焼酎男児」だと思っているよ(笑)。

自らの焼酎銘柄を造りたい

ニューヨークで造るならどんな焼酎かって? そうだね。麦焼酎かな。ライ麦を使ったやつね。芋が好きなんだけど、さつま芋は寒くて育たないんだ。

僕のこれからの夢かい? そうだね。ニューヨークのすべてのバーに焼酎を置くことかな。そして、いつか日本に住んで、自らの焼酎銘柄を造りたいと思っているんだ。蔵を開くなら、やっぱり九州だね。自分のつくった焼酎を仲間と飲みながら、「よか晩なぁ~」って、声を掛け合いたいよね。


プロフィール

スティーブン・ライマンさん

1970年、米ニューヨーク州・バッファロー生まれ。コーネル大学准教授でスポーツ医学を研究。自ら立ち上げたサイト乾杯USでは、焼酎の飲み方からテイスティングノートまで英語で紹介している。妻は日本人。