九州焼酎島

2016/11/21

蔵元探訪 | 蔵元探訪 中村酒造場(鹿児島県霧島市)

熱き30歳蔵人と81歳「最後の阿多杜氏」

プレミアム芋焼酎「なかむら」をつくる熱き男たち

芋焼酎「なかむら」をストレートで口に含んだら、蜜のような甘さだった。そんな話をしていたら、もうしゃべりが止まらない。中村酒造場の跡取り息子は、とにかく熱い。中村慎弥さん、30歳。1888年(明治21年)創業の蔵で今、「なかむら」や「玉露」などの芋焼酎造りに励んでいる。

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焼酎のことを語りだすと止まらない慎弥さん

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赤レンガの外観が美しい中村酒造場

「焼酎造りが楽しくて仕方がないんです。もちろん作業は体力的にしんどいですけど、好きなことをやって、大切な家族を養えるだけのお給料を得る事が出来て、それに何と言ってもお客様に喜んでもらえる。こんなに幸せなことはないと思うんですよ」

慎弥さんは焼酎のことを語ると、目をキラキラさせる。

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焼酎造りが楽しくてたまらない

兄、姉の3人兄弟の末っ子。幼いころは、蔵を継ぐ気はなかった。サッカー少年で中学最後の大会では全国大会3位の成績も残している。「正直、焼酎造りは小さな子があこがれるような職業じゃなかったですから」。祖母から、何度も中村酒造場をたたもうと思った、という話も聞いていた。昔は、そんなに売れなかったからだ。

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1次仕込みはかめ壺で

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2次仕込みは芋の甘い香りが漂う。かき混ぜる道具は地元の竹を使う。

それが2000年前後からの空前の焼酎ブーム。「なかむら」はプレミアム焼酎として人気に火が付いた。「まさか、こんな日が来るとは」。次々と焼酎が出荷される様子を、足元のおぼつかない祖父がパイプ椅子に座って見ていた。泣いていた。

「祖父の泣く姿を見た時、僕は蔵をなくしてはいけない、継がないといけないと思ったんです」。高校3年の夏だった。

兄からも「おれは経営をするから、お前は焼酎造りをしてくれないか」と誘われていた。そこで、慎弥さんは東京農業大学の醸造科学科に進む。酒造りを科学的な面で学んだ。

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「なかむら」の瓶が出荷を待っていた。

卒業後、山形の日本酒蔵に入って醸造酒造りを修行。理論だけではなく、現場で働くことの難しさやおもしろさを身体で覚えた。その後、大阪で酒の流通・販売に携わった。それまでは「良いものを造れば売れる」と漠然と思い描いていた概念がいかに甘かったかを思い知る。「売る」という事の難しさを商人の町・大阪で嫌というほど思い知った。

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日本酒蔵で修行した慎弥さん。繊細な手つきで米を扱う。

そうした経験を経て、2012年の春、実家の蔵に戻ってきた。

実は兄は今、焼酎造りとは別の道に進んでいる。跡取りは期せずして、慎弥さんになった。でも「高校3年のあの夏の日、焼酎造りの道を志そうと決めてから、その決断を一度も後悔したことはありません」。今でも兄との関係は良好だ。

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石造りの麹室

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蒸留機には温度対策で竹が巻かれていた。蔵では常圧蒸留の焼酎だけをつくっている。

中村酒造場に戻って5年。大学で酒造りの科学的な知識を得ても、日本酒蔵で清酒造りを経験しても、焼酎の現場はやはり勝手が違う。「やればやるほど、蒸留酒の難しさを実感し、その魅力に取りつかれていっています」

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最後の阿多杜氏、上堂薗さん(右)は優しい表情が印象的だった

蔵には絶対的な信頼を置く杜氏がいる。81歳の上堂薗孝蔵さん。焼酎界では「黒瀬杜氏」と並び称される「阿多杜氏」の現役最後の1人。名人が率いる現場で、慎弥さんは焼酎造りの技術、そしてその精神を学び、そして、自分に問いかけている。

「自分が飲んで感動出来る焼酎とは何だろう?」

その答えとして導き出したのは、「飲んだ時に、いかにアルコール感を抑えられているか」。焼酎(蒸留酒)はただでさえアルコール度数が高い。付け加えて、慎弥さんは体質的にお酒が強くはない。アルコール感を出来得る限り抑えた上で「中村酒造場でしか出せない味わいを、どれだけ出せるだろうか?」と考え、2つの方法を思いついた。一つは貯蔵・熟成。そして、もう一つが芋や米の原料由来の油成分の取り扱いだ。

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1次もろみの状態をチェック。

芋焼酎において「油」は雑味の元凶と考えられそうだが、良い油もあるという。良い油で味わいがコーティングされた焼酎は、ふくらみがあってキレのある味わいになる。だから、原料や製法にこだわっている。

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カルゲン農法で栽培された「ヒノヒカリ」

米油があるくらいだから、米麹づくりは重要だ。「なかむら」の原料米は、契約農家のヒノヒカリ。土壌に不足したカルシウムやマグネシウムを補う「カルゲン農法」で栽培されている。新米は粘り気が強いから、麹菌をつけにくい。だから、夜中に汗だくになりながら米麹造りに励まないといけないという。「本当に握力がなくなって、終いには手の感覚がなくなるんですよ」。そこまで苦労するのは、自分自身が納得できる酒を造りたいからだ。

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取材日は偶然、米農家が蔵を訪れており、杜氏らと談笑していた。

年々、酒質は上がってきていると実感している。原料の芋、麹米の質、製法にこだわった成果が表れていると思っている。

「熱心だから、技術の吸収も早いねぇ」。孫のような慎弥さんを優しい目で見つめる上堂薗さんに、「自分なんか、まだまだです」と慎弥さんは照れながら言った。

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年の差“半世紀”の師弟関係

八十路を超え、今なお焼酎造りに情熱を注ぐ最後の阿多杜氏の技術。その技を全力で盗み、現場的な技術と科学的なアプローチを融合させながら酒質を向上しようと励む三十路の若き蔵人。ちょっと舐めると、蜜のような味わいがした「なかむら」は、彼らの共同作業の結晶なのだ。

中村酒造場
http://nakamurashuzoujo.com
鹿児島県霧島市国分湊915
0995-45-0214
代表銘柄は「玉露」。石造りの麹室など歴史ある蔵の中で、かめ壺仕込みなど昔ながらの『手造り製法』にこだわる。


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