コロナ禍で社会貢献を
焼酎造りのノウハウを活かした高濃度アルコール
新型コロナウイルスの感染拡大による、アルコール消毒液不足を解消しようと、全国の酒造メーカーが相次いで、手や指などの消毒に利用できる高濃度アルコールの製造を始めている。
国の規制緩和でアルコール度数が60度台でも消毒液として認められ、製造に必要な免許も簡素化されたためだ。
焼酎王国の九州でも、もともと度数の高い蒸留酒を造っているメーカーが多いことから、「コロナ禍の今、お酒をつくる会社が地域に貢献できることを」と、多くの蔵が消毒用のアルコールづくりに参入した。
麦焼酎「つくし」を造る西吉田酒造は「つくしアルコール75」を製造し、医療機関や福祉施設、学校関係施設に優先的に供給している。
福岡の焼酎メインの蔵では、人参焼酎や焙煎麦焼酎・こふくろうなどで知られる研醸が「KENJOU ALCOHOL 70%」を製造し、医療機関や地元自治体向けに販売をしている。
麦焼酎蔵の天盃は「TENPAI66」を発表し、出荷を始めた。
長期樽熟成の麦焼酎「らんびき」で知られるゑびす酒造は「ゑびす蔵アルコール75%」を地元の朝倉市内で販売している。
福岡のほかにも、九州各県でも、消毒用アルコールへの参入が相次ぎ、鹿児島の小正醸造や宮崎の京屋酒造など芋焼酎が主力の蔵もつくっている。
「飲料不可」の高濃度エタノール製品と表記
いずれの焼酎メーカーも「飲用不可」の高濃度エタノール製品として販売している。
あえて書くが、小規模な蔵の消毒用アルコールは、本格焼酎を原料に造っているから、本来はお酒。
アルコール度数はかなり高いけど「正直な話、飲めます」とある蔵元と言う。
なぜ「飲用不可」なのか?
理由は酒税だ。
国税庁は時限措置として、高濃度エタノール製品に該当する酒類のうち、一定の要件を満たし、「飲用不可」の表示を施したものについては酒税を課さないとしている。
だから、「飲用不可」の表記を書くことで、酒税がかからず、安い値段で、必要な人たちに供給ができるというわけだ。
本来は焼酎を飲んで、喜んでほしい
コロナ禍で焼酎メーカーも深刻だ。
売上が下がり、蔵の行く末を案じる声も多く聞く。
消毒用のアルコールも、本来なら、本格焼酎として消費者の口に入るはずだったもの。
「手間ひまかけて造った焼酎が、単なる消毒用のアルコールとしてしか見られないのも正直悲しいです」とある蔵元は複雑な胸の内を明かす。
「大手酒造メーカーが今後どんどん、安価な原料用アルコールを使用した、価格の安い高濃度エタノール製品を市場に出してくるでしょう。そうなると、中小規模の酒蔵の役割は終わります。それはそれでいいのですが、なんとも虚無感が漂います・・・」
多くの酒造メーカーでは「今、お客様に必要とされることが大事。アルコールを製造するものとして地元に貢献したい」との思いから、「飲用不可」の高濃度エタノール製品として製造を続けている。
ただ、やはり愛情を込めて造った焼酎は、消費者のみなさんに飲んで楽しんでもらいたいのが本音である。
新型コロナウイルスの驚異が去るのを願いつつ、焼酎ファンとして今できることは、大好きな酒蔵のお酒を飲むことなのだとあらためて思う。